撮影日誌……と言いながら、
なかなか撮影まで至りませんが、
いつの日か、必ず撮影はもとより、
編集、ダビング(音入れ)まで辿り着きますので、
見捨てないでね。
<前回までのあらすじ>
バタバタとしているうちに、
いよいよクランクインが目の前に迫ってきました。
ホン直しにリハーサル、ロケハンなど、
並行して色々な事を進めてる
そんなある日……。
ホンを読んで出演を快諾してくれはりました
京子役の秋野暢子さんが
「いちど十三に行ってみたい」と
言うてはるということを聞き、
それなら十三で顔合わせしよう、ということに……秋野さんとは全くの初顔合わせ。
気さくな方であろうとは想像できますが
礼は尽くさねばなりません。
まして忙しい中、わざわざ足を運んで下さるのに、
ナナゲイの狭い小さい事務室は論外だし、
サンポードの隣の喫茶店コスタリカは
打ち合わせなどで愛用しまくってますが、
ちょっと浮くやろなぁ
それに車停められるとこでないとなぁ…
などと考えて、
結局、十三でイチバンの
ホテルプラザオーサカの喫茶室で
お会いすることにしました。
約束の時間になって
現れた秋野さん、
長っがいながい細っそいほそい足に白のパンツ、
胸元も露わでセクシーな白のジャケットに
アシンメトリーにカットされたボブっぽいヘア……。
(うわー……めちゃめちゃシューッとしてはるわぁ……!)
と、ちょっと焦りました。
「十三のおかあちゃん」というよりは……
(「というよりは!?」 by パンチde デート)
「銀座の一流ブランド店のショーモデル」ではないですか!
(「こういう感じがいいと思うの」って言われたら
どう説得しよう?)と内心ビビってると、
開口一番
「気ぃ使うて、ええとこにしてくれはったんやろけど、
もっと「らしい」とこの方が良かったのに。
私、このままやったら十三のオカンになれへんから、
商店街とか店の匂いを感じたいと思たんですよ」
と、まるでこちらの心を読まれたような気になる
台詞でジャブ。
「ほんなら後で色々歩きましょう」ということにして、
衣裳、メイク、そして一番大事な脚本とキャラクターの話。
こちらの思うことをお話ししたのですが、
うまく伝わらなかったのでしょうか。
秋野さんから質問が……。
「なんとなくは分かりました。……で、結局のところ、
この映画では何を描きたいの?」(メチャクチャ真剣な眼差し)
(!……ゴクッ……)
(こ、こういう場合、何を答えたらええねやろ?
大まかな意味で聞いてはんねやろか?全く分かれへんかった
……ってことではないやろし……)
と迷ってると、補足するように秋野さん、
「家族の話なんやろか?男の子の話?」
(なるほど。作品のホンマのヘソのことやな……。
そら男の子や。……が、しかし、ここで「男の子です」と
正直に答えて「あぁほんなら私は主役じゃないの?」とか
急にヘソ曲げられたらどうしよう。いや、ヘタに小細工や
おべんちゃら言うても見透かされる。ここは一つ思いきって
思ったままを言おう。大丈夫そんなことでどうこう言うような
人ではないことは、さっきまでのやりとりで確かや。
……ホンマか?
そんなに人を見る目あんのか俺は?
いや、まずい
黙り込んで何も考えてないと思われるのもまずい、
何か言わな……
なんか……
いや案外始めに心に浮かんだ事を正直に、
それが一番や。よし、エイッ……とここまで0.5秒〜1秒……たぶん)
「……男の子の話です。決して父母が脇ってことではないんですが、
男の子が父母の姿を見る事で、一歩……いや半歩ぐらい、ほんの
少しだけですけど大人に近づくという話です」
「……分かりました(ニコッ)」
この一瞬はホンマに緊張しました。
その後は、商店街を一緒にウロウロ。
その道すがら、サンバイザーをどこかで使おう、と
いうことや、衣裳メイクの方向性を話し合う。
男物のジャージ、柄の入ったジーパン、サンダル、腕カバー……
髪型は少なくとも今のだと洗練されすぎてるので、
宿題として何らかの髪型に変える事、などが決まりました。
最後に、歩きながら秋野さんが
「何年か前にも新人監督のシャシン(秋野さんは
映画のことをシャシン=活動大写真から来た
撮影所時代の言葉=と言いはります。想いを感じます)に
出た事があったんですけどね、キャメラマンとかベテランの
スタッフが、『そんなのオカシイよ』とか『無理だよ』とか
言うて若い監督のこと全部否定すんのよね。
私、そんなん大っ嫌いなんです。
ベテランほど、助けてあげるべきや思うし、
逆に一回監督の言うこと、何とかして実現さしたげよって
頑張るべきやと思うんですよ。
せやから、何でも思ったこと言うてくださいね。
わたし頑張るから」って言うてくれはったんです。
その時も「ありがとうございます!」って
御礼言うたと思うんですが、
あらためて、
秋野さん有り難うございます。
あの言葉にはホンマに勇気づけられました。
グッと胸が熱くなりました。
今でも、あの時渡った横断歩道と、
空港に向かって去って行きはる姿の映像は
忘れません。
あ、もひとつ
「井筒さんにメールしたんです、井筒組の助監督してたって
書いてあったけど、こんな人知ってる?ゆうて。
ほんなら『ええヤツや。才能あるかどうかは知らんけど、
オモロいヤツやから力になったって。お願いします』ゆうて
書いてはったよ」という言葉もグッと来た言葉その2です。
井筒監督、有り難うございます。
そんなんでまだまだ撮影までは至りませんが
次回も乞うご期待!
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