顔合わせに続いて、衣装小道具合せでも
女前を発揮しはった秋野さん。
史上初、商店街の店を巡りながらの衣小合せは
奇跡的に成功(?)した。
そしてその2日後、雀々さんと子供時代の賢治の衣装合せを
終えた後に劇用写真撮りが予定されていたのだった……。
この時点ではまだスチルマンが決まっていなかったので、
(つけられないかも?と言われていた)
僕自身が撮影するはめになってました。雀々さんの衣装合せと子役賢治の衣裳合せは、
まあまあ問題なく終わり、
前日に、助監督M君がロケハンしていた
服部緑地にいざ出発。
しかしその日は生憎の雨でした。
本日の写真撮影のテーマは
「賢治が小さい頃の楽しそうな家族旅行」です。
ロケハン情報によると、
1・近所の公園に見える遊具ゾーン
2・民家集落博物館で藁葺きの家(中・外)
3・乗馬ゾーン
と盛りだくさんとのこと。
しかし雨を感じさせないように撮れるかが
心配でした。
秋野さんは大阪でのテレビ番組収録後、
合流することになっているのですが、
夕方、伊丹発の飛行機に乗らないと
いけない、というのも心配事のひとつです。
駐車場に車を停め、雀々さんの白髪を染め
髪型を少し変えます。
助監督は「撮影許可書出しに事務所に行ってきます」と
いなくなりました。
時間がないので、駐車場の横に見えた遊具ゾーンらしき
ところで撮影を始めます。
が、どう見ても雨降り。
小降りになった瞬間を狙い、
タコの形の遊具の表面の雨を布で
拭き取って数枚。ブランコで数枚。
どんよりした空が見えないように
奥に木立があるところを探します。
次に、屋根のあるベンチに移動。
何とか空をトバして晴れてるように
露出を調整しながら撮影。
しかし、ふと気づくと、
「はい撮ります」の声とともに
雀々さんの顔が
「新春東西お笑い総出演!」のポスターみたいに
キメキメ芸人顔になってきてます。
「もうちょっと力抜いてみましょうか」
しかしマニュアルでピントを合わす
僅かな間、シャッターを押す瞬間……
習性というのは恐いもので
芸歴30年の蓄積がワザして(?)
なかなか「親子で近所の公園に来てる」ように見えません。
(モータードライブ<一秒に数枚撮る為の連射装置>持ってきたらよかったな)と
思いながらも、シャッターを切り続けます。
なんとか、数枚はイケルかな?と
思うものを撮ったころには、
次の場所に移動するべき時間が近づいてました。
まずは秋野さん支度部屋として借りるはずの
国民宿舎へ向かおうと、一旦車へ戻りますが、
許可書を出しに行った助監督M君は
まだ帰ってきてませんでした。
車のキーを持っていったまま、
電話をかけても出ない。
あらら、どうしましょ
仕方なく、公衆便所で雨宿り……。
10分後、ようやく戻ってきたM君の車に
乗り込み、園内の国民宿舎へ。
支度部屋として借りた小さな暗い部屋に
メイク道具等を運び込みます。
そしてメイクさんには秋野さん支度のために
残ってもらうことに。
「秋野さんが入ったら連絡ちょうだい」と言い残し
我々は一足先に民家集落博物館へ。
敷地内に、いろいろなタイプの民家があるので、
そのうちの幾つかで、
先に父子だけのカットも撮っておこう、としたのですが、
室内は、暗い上に、
いかにも博物館のような場所が多く、
十分ほどで撮るべきものを撮ってしまいました。
あとは秋野さん待ちです。
さっきまでは、「早く撮らないと」と焦ってたのに、
いまや、いかに時間稼ぎをしてると思わせないで
雀々さんと雑談するか、ということで
アタマが一杯です。
小「しかしまあ何ですねぇ……」
雀「何が何ですねぇ……やの?」
小「そうそう、ほんま何が何して何ですよねぇ……」
一方、初めて来た場所に興奮気味の
大塚くん(幼少の賢治役)は絹を縒る
手回し車を回しまくって楽しそう……。
そろそろ間が持たなくなってきた、と
焦っていたところ、
メイク部から電話が!
「秋野さん、今来はったんですけど、
ご自分でパパッとメイク直されて、そっちへ向かいはりました」
ええぇっ?
Mくんが慌てて迎えに行くものの
見事にすれ違い、
秋野さん到着!
開口一番、
「何から撮ります?どこ?外?中?」
アドレナリンが噴出する音が聞こえたような気がしました。
でも、ひと呼吸してから
「じゃあ、まずは縁側から撮りましょうか」と
精一杯落ち着いたつもりで。
(焦ってたのはバレバレだと思いますが……)
「目線は?」「手は?」「どんな顔?」
矢継ぎ早の問いに一つ一つ答えつつ
雀々さんの芸人顔に注意しつつ、
露出を図りつつ……。
「じゃ、次は合掌造りの屋根バックにするんで正面へ回りましょう」
ぬかるんだ泥道を、若奥様な秋野さんが
早足で行きます。
秋「これ足写ります?写んねやったら靴替えますけど」
小「いや、屋根入れたいでアオります。マンマで大丈夫です」
秋「わかりました、ハイどうぞ」
小「いきまーす、ハイ(カシャ)もう一枚(カシャ)」
秋「顔は?こんなんでよろし?」
小「もうちょっと帽子浅めにしましょうか」
秋「はい。ちょっと鏡見せて(と帽子を直し)こんな感じ?」
小「そうですね。ほんならもう何枚か(カシャ、カシャ)
ちょっと寄ります(カシャカシャ)」
秋「他には?」
小「……いや……ここは……大丈夫ですね、はい」
秋「はい。次は?」
ここで、少し注釈。民家集落博物館というのは、
博物館といえども、ひとつの建物の中に展示されているわけではなく
広い敷地に実際の古民家を移築して展示してある施設なのです。
事前にMくんが下見しているのですが、
朝からスレ違いがあったり、猛ペースに飲まれたりで
完全に自分を見失った状態で、次の場所に皆を導くことが
できず行方知れずになってしまいました。
(後から聞くと、道案内とともに次の家の囲炉裏に火を入れてもらう交渉を
しなければいけなかったそうで、一概には責めきれませんが……)
あらら。
その間も、若奥様な秋野さんはズンズンと進んでいきはります。
秋「どっち行ったらいいんですか?」
小「(分かりませ……ん……が)
あ、看板に『右』って書いてありますね、右で〜す」
ようやく辿り着いた家パート2では室内撮影。
雨の夕暮れ時の民家。
光源は囲炉裏の火だけ。
絞り開放、シャッタースピードは15分の1〜8分の1。
顔の角度を少しずつ変えたりして
何枚か撮りました。
ここで撮った写真が映画の中のアルバムに
使われてます。(「夫婦水入らず」という注釈入りで)
これも後から雀々さんに聞いた話ですが、
この時に、笑顔いっぱいの若奥様(しつこい)秋野さんが
雀々さんの耳元に
「ここまで小規模なん初めてやわ。
何これ、監督が写真撮ってるって。スチールさん居てへんの?」
「照明さんは?こんな暗いとこで撮ったことないわ」
「わたし分かるわ、これ絶対写ってへんよ」
などと、半分ギャグ混じりに囁いてはったらしいのです。
手ぶれしないように、とか
ピント合わせ、表情、飛行機の時間、次に行く場所……
色んなことに気をとられていて、
そんなこと全く気づきませんでした。
そして撮影はまだ続きます。
が、あまりに長いので
今日は、この辺で……。
(つづく)
<撮影日誌13へ>
劇用写真撮影だけでこんだけエピソードあるのなら、ぜーんぶ書いたら本ができるね。
人の名前を思い出そうとしても、
そのヒントになる事柄の名前が
出てこなかったりして
「ほらあの映画で、アノー、あれ演ってたあの人……
ほら、けっこう有名」などと、
かりにも映画屋さんの端くれとも思えないことを
口走ってたりします。
エピソードはまだまだありますねぇ……。
助監督やったやつも合わせると
ほんまに色んな話が……。
まぁ、本にできないようなことが一番オモロいのかもしれませんが……。