2009年09月02日

撮影日誌15・いよいよ!クランクイン

ブログ書いてる当人でさえも
忘れかけていた撮影日誌ですが、
忘却の彼方に消え去る前に
書き残しておかねばなるまいと
一念発起しました。


(すっかり忘れてしもた、という方に、撮影日誌一覧です)
</////////10/11/12/13/14>


実を言うと、完全に忘れていたわけでもなく
「こう書いたら悪口になるかな」
「アレ書いたら愚痴になるかな」

などと思い悩んでいるうちに
何も書けなくなっていた次第です。


時効が来た、ということで
遠慮なしに書くことにします。
それは事実と違う、と思った人は
コメント欄に書き込んでください。
併せて公開します。

ま、要は「色々思ったこと書くけど気ぃ悪せんといてよ」
ってことです。

ごちゃごちゃ言うてんと
早よ始めぇよ、との声も
聞こえてきそうなので、能書きはこの辺で。




<前回までのあらすじ>
クランクインが迫るにつれ
色んなことが怒濤のように押し寄せ
合宿所はてんやわんやで……
ぴ、ぴ、ぴーよこちゃんがアヒルがグヮーグヮー
(どんな粗筋や!と腹立った方は、撮影日誌14へ)


DVD特典のメイキングにも収録されている通り、
撮影初日の一番初めは、賢治君が青少年電話相談所に
電話をかけるくだりでした。

でも実は前日、渡された日々スケ
(翌日一日分の撮影メニューなどが記されたスケジュール表)には、
9時開始で不動産屋のシーンから、となっていたのです。

2週間しかない撮影で9時開始か?
撮影の一番手からガッツリ芝居のシーンか?と
疑問に感じて、不動産屋撮る前に
7時からガード下で電話のシーンを挟むことを主張したのでした。

合宿スタイルのいいところで、
隣の部屋の久野くんに
「そういうことになったから」と
伝えるだけで番手変更。

さてさて、朝になってJR塚本駅近くの高架下に移動。
皆が機材を降ろし
画面を邪魔する探偵社の派手な看板を(一時的に)外し
賢治君の動きを大体決めたところで
テスト開始。

携帯電話は、後から音をハメ込むのではなく、
角を曲がったところに停めた録音部・石寺君の車の中に
相談員のマツイさん役の入口夕布さんが携帯を持ち込み
実際に携帯で会話する段取り。

テストから電話を繋いで芝居します。
「電話準備いいね?」と助監督M君に確認すると
元気よく「ハイ!電話準備OKです!」と返事。


いい感じで現場が進んでいきそうです。
さあ、テスト……

……と思ったら、電話が繋がっていません。
「今の返事はなんやってん……」などとボヤキつつも、
初日の初めなので怒鳴ることもなく
あらためて電話が繋がるのを待ってテスト開始

「テスト、ヨーイ、ハイ!」

賢治君が「カット」を待って芝居を止めるので
「カットかかるまでは、何でも思いついた芝居を続けて」と
指示したり、電話の相手が出たときに

「間違いました!」と切るさまが

ちょっとわざとらしく感じられ

何度かテストを繰り返します。


そして芝居がほぼ固まったところで本番に突入。


「ホンバン!」
聞き慣れた武さんの声が響きます。
近藤くんが「カメラ回りました」
助監督M君がカチンコを担当していますが
ハサミを開いたまま、アサッテの方向に突き出して
「(シーン……1秒静止)」
無言無音のまま引っ込めます。

「打てよ!」
思わず、ボクと武さんの声がシンクロしました。



そもそも、カチンコというものを
なぜ鳴らすのか?

映画作りと言えばカチンコ!というぐらい
一般にも知られた存在でありながら
その目的を知っている人は皆無に近い不思議な道具です。

ご存じの方はご存じでしょうが
映画の撮影用フィルムには、
ビデオテープと違い、音が録音できません。

そもそもの昔、映画は上映時もサイレントでしたし
トーキー時代になってからも
アフレコで録った音を後からはめ込んでいました。

マイクや録音機材の進歩により
同時録音するようになって
別録りの磁気テープ(初期は光学録音、
  現在はハードディスク録音が主流)の音と
フィルムに写った絵を同期させるために
「カチン」と鳴った瞬間のカチンコのハサミ部分を
撮影して、そのコマに合わせて編集時に「カチン」という音を
合わせるのです。ついでにカチンと鳴るハサミに
黒板もつけとけば、シーンナンバーなんかも
分かって便利……てなことが始まりだと思われます。


↓さらに分かりやすく解説してくれているサイトです
あらわし手賛歌
(「ピンポン」「The マジックアワー」などの編集マン上野聡一さんのHP)
 <映画編集>をクリック
  →最下段までスクロールし<フィルム編集>をクリック


今回「かぞくのひけつ」はビデオ撮りなのですが
音素材は別録りなので、「カチンコはフィルム方式で」と
前日にも確認したばかり。

なんてことをしていたら、
電車が来て一旦休止。
頻繁に電車が通る区間なので
合間を縫って撮っていきたいのですが
テキは身内にもあり。

あらためてホンバン始めると
カメラ横からでは台詞が全く聞き取れないことに
気がつきます。
予算のある作品では、監督のヘッドフォンに無線で
録音部からの音が飛んできたりするのですが
今回は、録音部技師助手合わせて1人。
録音機材を乗せるマグライナー代わりに
酒屋の台車という有様なので
とても、そんなものはありません。

それどころか
6個中4個のワイヤレスマイクは
清掃業でおなじみのダ●キンでレンタルした
運動会で校長先生が喋ったりする用のもので、
受信機はスピーカー付で、昔の8トラックカラオケ機なみの大きさ。
送信機は普通の大きさでしたが、
マイクの本体は、通常の3倍ぐらいあって
チェホンマンの親指の先ぐらいの大きさです。


とにかく、聞こえないとしょうがないので、
画角ギリギリのところまで前進して
聞き耳を立てますが、それでもあまり聞こえません。
ましてや電話の音は、想像するしかありません。

(ま、最悪電話の方はハメカエたらええか……)
などと考えながら、もう一回。


と、ここで武さんから提案。
「カチンコ、アメリカ方式にした方がいいんじゃない?」

今回は解説めく文章が続きますが「アメリカ方式」とは?
先ほど話したカチンコですが、国によって、
そして日本でも昔の撮影所によって、
カチンコを誰が打つか、いつ打つか、
どうやって打つか……ということに様々なバリエーションがあるのです。


日本においては、
ほとんどの場合、助監督のいちばん下が打ちます。
(かつての大映では録音助手が打っていたそうです)
「ヨーイ」という声で、画面の端から
カチンコだけを静かに差し出し
「ハイ」や「スタート」の掛け声の直後に
「良い間で」クリアに「カチン」と鳴らし、
ハサミを閉じたままにせず、キレイに開いてから
なるべく速く引く……というのを、理想的には
入る→1コマ
打つ→1コマ
引く→1コマ
で行うのがいいとされてます。

その他にも、チョークの粉を飛ばさない、
マイクの近くでは小さめに打つ、
ライトの光を黒板に受ける(足りない場合はペンライトで自ら照らす)、
引くときに音を立てない、
打ち終わってからも芝居を見られる位置取りをする……
など、さまざまな試練があるのですが、
それが、監督となるために、そして映画作りを体で覚えるために役立つ……
という考え方なのです。


一方、アメリカでは撮影助手(Clapper=カチンコ係)が、
「Roll(フィルムを回せ)!」の掛け声がかかってから
ゆーっくりと画面の端から歩いて現れ、
堂々と体ごと写ったまま
撮影部の「Speed(フィルムの回転数が安定したという合図)」
録音部の「Sound(同じく録音テープの回転数の合図)」という
声を待ってから、「シーン125、カット3,テイク2」などと
マイクに叫んだ後に、両手でパッチンと打ち終わってから
スタスタと退場します。
それからようやく監督が「Ready, Action」をかけるというわけです。

映画に愛をこめて アメリカの夜 」ではスクリプターが
同じようにユッタリと打っていましたので
フランスではそうなんでしょう……か。


予算のない日本映画ではフィルムを節約するために
上記のような方法が取られたらしいですが、
気持ちよく芝居に入るためには、
それ相応の「カチンコ道」の技量が必要なのです。
ちょっと、定向進化がすぎて様式美の世界に
入り込んでいる部分がなくはないですが。


長々とカチンコについて語りましたが
そんなわけで、アメリカ方式==M君が
カチンコを打ってから
私が一間置いて「ヨーイ、スタート」を
かける==で進めることになりました。

あらためて「ホンバン」
M君、カチンコを差し出しますが
また無音のまま引いてしまいます。

打てよーっっ!!!!

武さんとのシンクロも数段ギアアップするのは
仕方がありません。
まだ朝の7時ですが、撮り切れるか心配になってきました。


気を取り直してホンバン
M君、今度は打ちましたが
「カチン、カチンカチ」と二度打ちです。
二間ぐらい空けて気を取り直し直し
「ヨーイ、ハイ」

何度かこんなことを繰り返し、
初日ワンシーン目を終えたのでありました。



あ、久野君の芝居?
ちゃんと見てましたよ。


電話を切ったあと、
広告入りのティッシュで鼻をかんだり
自転車に乗り込んだり
色々やっていて採用しました。



編集で切りましたけど


<つづく>




ラベル:撮影日誌
posted by 小林聖太郎 at 23:00| 大阪 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | さつえいにっし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
blogbanner_2.jpg
リンクフリーです。↑バナーもよかったらどうぞ